第8回「いじめ・自殺防止作文・ポスター・標語・ゆるキャラ・楽曲」コンテスト
 作文 教師部門・最優秀賞受賞作品


   『 いじめ、なぜ起こすの』
  〜ダイナミズムを生かした学級経営〜
        


                                           NO!IJIME

 はじめに

「つらいね!くるしいね!にげたいね!」
いじめに苦しんでいる方の辛い言葉、叫びが聞こえます。

 私は、中学校の先生でしたが、大学でずっと勉強してきたことが、みんなの悩んでいることを聞いて、一緒に考え、一緒に動きながら、あなたのいじめや悩みを少なくして消してしまうことです。
あなたにできる影のようについていき、いじめ・悩みがなくなった時、私、影は消えます。

 たくさんのいじめや不登校で悩んでいる子どもと係らせてもらいました。中一の時、いじめで不登校になった子が多いです。でも、今は立派に活躍していますよ!洋服のお店の店長さんや何と小学校の先生になった人もいますよ。みんなそれぞれ。悩みもそれぞれ。私はあなたの影ですから、いつもいっしょにいますね」
 やむにやまれぬ気持ちで、言葉かけから始めさせていただきました。
今、コロナ禍で、休校やオンライン授業になり、気持ちが楽になっている人もいるのではないでしょうか。

 私の考えを、述べさせてもらいます。一人ひとりの子どもたちの力のダイナミズムを教師が丁寧に分析して、楽しく過ごせる学級をつくれば、いじめなどは、起きない。教室を支持的風土にする。教育学用語で、子どもたちみんなが支持し合える環境のことだ。

 全ての教員が、支持的風土づくりの理論・手立てをマスターし、子どもたちの持つ力のダイナミズムを上手に結び付けられる技術を身に着けていれば、いじめなど起きない。私が実践してきたダイナミズムを生かした学級づくりの手立てを具体的に紹介して、教職人生最期の恩返しとしたい。唐突な書き出しになってしまったが、私自身のことから紹介させていただく。

  教育に興味・関心をもったのは、高校三年の時だった。高校にも大学紛争の余波があった。私も自分の生き方を熟考した。すでに、上智大学外国語学部に推薦入学が決まっていたにも関わらず、教育学を研究したい強い気持ちのため、身勝手ながら推薦入学を辞退させていただいた。ノーベル平和賞のマララ・ユスフザイ女史が言われたように、「これからの世界を変えられるのは、教育の力だ。」と考えたからだ。

  とは言うものの、時は晩秋、志望大学も決まらず浪人生活。そして、教育学専門の学科を探し、早稲田大学教育学部教育学科教育学専修に入学した。とにかく教育書を読み漁った。特にペスタロッチの教育理論に興味を持った。四年次、教育が大きく変わった戦後教育を卒業論文とした。占領下での教育施策が今日の教育問題に直結していると考えた。同時に就職を考え、教育の勉強を続けられると考え教職を選んだ。

 実際、中学校の教員になってみると、それどころではない。校内暴力も激しく、早朝から夜遅くまで、いや夜も問題が起き翌朝まで。クラスには五十人近い生徒、朝の週番活動、授業、会議、部活、夜のパトロール、土・日も部活。今、過労死状態と言われるが、当時はさらに過酷だった。それでも、子ども達のために、必死に考え、実践した。学んできた教育学を実際の場で生かせた。

今は、担任をやりたくない教員もいるが、当時は担任希者ばかり。いじめなど起こしたら、担任をはずされてしまう。また、今は教員志望者が激減し、資質面でも心配だ。この教育情勢の変化が、いじめ・不登校の問題を際立たせている。

1. ダイナミズム 

 子どもを教育する権利は、誰にあるのか。親か国か、アメリカで裁判があった。判決は、自然権に目を向け、子ども自身が生まれながらに教育を受ける権利を持っていることを第一に考えた。この自然権としての教育権を、使命職である教育者特に担任は、子ども達のもつ力のダイナミズムを測り、学級の中で再構成できる力が、必要だ。ダイナミズム、つまり力の平行四辺形のイメージだ。図示する。

 図のように、図@では、生徒Aと生徒Bのもつダイナミズムは、Xになる。

  図Aでは、マイナスの作用が強い生徒Cが加わり、Yになる。

  図Bでは、生徒Dが加わりZとなり、Yと同じプラスのダイナミズムとなる。このダイナミズムとは何か。

 生徒それぞれに、良い方向へ向かうプラスの力、悪い方向へ向かうマイナスの力、プラス・マイナスを合わせた合計の力がある。この力を測り、結び付け総合のダイナミズムを把握する。

  また、AとB、AとC、またCとD、どこでどのような結びつきをつくるかを考える。この結びつきの例として、座席が第一に考えられる。Aの隣にBがいるとどんなプラス、又はマイナスになるか。座席が、結びつきをつくる上で、最も有効な手段になる。座席については、後述する。ダイナミズムを相対的にプラスになるようにつくれば、いじめなど起きない。

  いじめなどの問題が起きるのは、ダイナミズム把握の失敗と有効な結びつきの欠如による。このような失敗は、絶対に許されない。

 では、子ども達それぞれのダイナミズムは、どのように測るか。体重計のような機器やものさしもない。では、何を根拠にして測るのか。バロメーターという表現の方がわかりやすい。例えば、表情・言葉遣い・友達や教師への接し方・親との関係・休み時間の過ごし方・学習への取り組み方・登下校の様子・清掃や奉仕活動への取り組み方・授業中の様子などである。


 これらを総合的に考え、プラス又はマイナス、どれくらいかを位置づける。客観的に数量化できるものではない。教師の裁量による位置づけになる。ファジーなやり方だと考えるかもしれないが、これが教育の元になる力、未知の力である。自然権として教育権を捉えると、子ども自身が持っている力は、数量化できないし、客観性も難しくファジーなものである。ダイナミズムを活用し、子ども達の力を思い切り伸長するところに、教育の醍醐味がある。このことを理解した前提で、支持的風土づくりの手立てを紹介する。

2. 個人ノート

 第一に個人ノートだ。子どもたちを理解する直接的な手立てである。これは、生徒一人ひとりと私が個人的にノートでやりとりをする方法だ。このノートで、その子の悩みなどがわかり、友達関係もよくわかる。その子を認めてあげること・無理をさせないこと・希望をもたせること・次につなげることを念頭に丁寧に書いた。6〜7人ずつすすめた。必要な生徒は、いつでも提出できるようにした。注意すべきことは、生徒から直に提出・手渡しでの返却だ。列ごとに集めたり、誰かに返させたりするのは厳禁だ。出張などで帰りに渡せない時は、昼休みに返却した。他の先生に返却を任せることさえ控えた。それほど、生徒一人ひとりを個人として大切にする姿勢をもつべきだ。また、無理に提出させない。提出できない理由を考え、別の手立てをとる。

 よく使われる班ノートは使わなかった。それは、愚痴の言い合いや、傷の舐め合いになってしまうことも考えられるからだ。
 個人ノートへの返信は、もちろんプラスのことばを使うが、「頑張れ」「大丈夫」などのことばは、重荷になるか安易にとられる怖れもあるので使用しない。書いてくる字の大きさにも注意を図り、こちらも大きさも注意した。今や、学校へスマホ持ち込みが許可され、メールやラインになっていくのか懸念される。


3. 座席

 第二に、座席の配置だ。この座席が、学級の雰囲気をつくる。明るく過ごしやすくするため、より良い友達関係ができるようにするため、前述のダイナミズムを考え座席を決めた。当然、生徒の座席は、私自身が決めた。この子の隣にこの子だとどうなるか、この子の前後にこの子だとどうなるか、この子の斜め後ろにこの子がいると、こういうことが起こるだろう、この子と仲良くなるとお互いに伸びるだろうとか、困った時この子が隣にいれば助かるだろうとか、さまざまな想定をして、何日も悩み座席をつくった。また、この座席で、一週間後にこういうトラブルが起きて、それを解決すれば、さらに良好な関係ができるだろう。とトラブル予想もした。失敗もあった。失敗の時は、子どもたちに謝り、なるべく速く替えた。失敗のまま放置することは、それこそいじめに繋がる危険性もある。この座席配置は、大きく学級の雰囲気を変えた。前述の個人ノートも判断材料にし、座席を工夫した。教科担任からも授業の様子を伺ったりもした。座席は、どのような学級にしていくかを決める大事な手立てだ。くじ引きなど偶然性では、良い学級づくりはできない。「支持的風土づくり」が、とにかく大切である。ちなみに、逆は「防衛的風土」で、生徒みんなが自分を守ってしまい、学級として向上していかない。とにかく座席を熟考して、明るく楽しくお互いに認め合える学級をつくりあげ、学級の力を向上させ、学習に、行事に、その力を発揮させた。


4. X氏への手紙

 第三に、X氏への手紙を少し変えたものを実施した。ある子の性格・長所・少し直した方がいいと思うこと・向いていると思われる職業などを、他の子が書いてあげる。全員がクラスの誰かのことを書く。そして、私がそれを読み上げ、誰のことかみんなで考えて、当てていく。一種の積極的な人間関係づくりゲームだ。ルールは、自分が誰のことを書いたか絶対に言わないこと、その人の良いことを中心に書き、相手が傷つき、嫌だなと思うことは書かないことだ。誰が誰のことを書くかは、もちろん私が決めた。この子がこの子のことを書くと、こう書いてくれるだろうとの期待を込めて決めた。

 この方法は、子どもたち一人ひとりに自信を持たせたり、自分が他の子からどのように見られているかもわかったりして、楽しみにしている子も多かった。また、今度はこう書かれるようにしようと自分を変える子もいた。もし万が一いじめられている子がいたら、表現からすぐわかる。さらに、友達への優しい気持ち、思いやりの心を育てるのにも役立った。


5. 日課

 第五に、担任として、日課になっていたことがある。朝、登校してくる子ども達を教室で迎えることだ。教室に入ってくるその子の様子をみるといろいろなことがわかる。もちろん、一人ひとりに声をかける。朝、よく校門であいさつ運動として声をかけている様子も目にする。管理職や担任外の先生ならいいかもしれないが、学級担任は教室で生徒を迎えて欲しい。門で声をかけられると入りにくい生徒もいるかもしれないし、負担に感じる子どもはいると思う。みんな元気に「おはようございます」と言える子どもばかりではない。誤解しないで欲しいのは、朝のあいさつ運動が無意味でやめた方がいいと言っているわけではない。昼休みも、できる限り校庭や教室でこども達と遊んだり、話したりした。働き方改革や勤務時間・休憩時間の関係とかで、さまざまな考え方があるだろうが、基本的には子供たちとなるべく多く係っていてあげようと思うのが、教育者の思いだろう。


6. 環境整備

 環境整備は、いじめ根絶にも大切だ。すさんだ教室環境では、生徒の心もすさんでしまう。教室は、生徒にとって生活の場だ。毎日、多くの時間を過ごす。そのため、教室環境整備にも力を入れた。
 掲示板・掲示物について、手順を紹介する。まず、掲示板全体に、黄緑色の模造紙をきれいに貼る。これは、緑に気持ちを落ち着かせる作用があり、黄緑には緑にやや明るい要素を取り入れ、教室を明るい雰囲気にした。普通、掲示板は濃い緑だが、変色していることもあるので、黄緑の模造紙をまず貼った。
 次に、掲示物・内容・デザインを決め、掲示板の位置と合わせて、生徒全員で考えた。掲示する紙は、色画用紙だ。色を決める人、デザインする人、文字を書く人、髪を切る人、貼る人、全員が関わった。優れた掲示物をつくり、綺麗で長持ちするように工夫した。

 また、水槽を置き、熱帯魚なども飼育した。熱帯魚も美しく、水が癒しをくれ、生徒の気持ちも安らぐだろうとの思いからだ。さらに、観葉植物・花を置き、教室を明るくした。
 視座を変えて、健康面からも環境整備をと考えてみる。健康面で大切なことがある。室温・湿度だ。夏はエアコンが整備され、冬はストーブだ。見逃してはならないのは、湿度だ。冬の欠席者の多いことが気になった。冬はストーブ暖房で乾燥する。インフルエンザやかぜが広まり、欠席者も増える。学級閉鎖・学年閉鎖まで起きる。そこで、加湿器に目をつけた。教頭の時、全教室・特別室・校長室・職員室に加湿器を入れた。驚いたことに、欠席者は激減した。インフルエンザは、湿度に弱い。転任先でも加湿器を全教室に入れた。今のコロナ禍、冬の加湿器は必需品だろう。


7. その他

 その他、独自の学級日誌の工夫・学級活動ノートづくりなどに取り組んだ。
 とにかく、いじめ防止という狭い観点ではなく、明るく楽しく過ごせる人間関係づくりを、積極的に進めていくことが大事だ。大きなプラスの雰囲気をつくれば、マイナスの雰囲気など消し去ってしまう。
 また、部活動でも人的環境整備は大切だ。仲間意識が大切な部活でいじめがあるようでは、脆弱な部になってしまう。せめて練習試合では、レギュラー以外の生徒も試合に出してあげて、部員みんなにヤル気を持たせて、部活動も支持的風土にすることも大事だ。


おわりに

 少子超高齢化と厳しい労務環境のため、教員の希望者は減少している。文科省・教育委員会が英知を絞り、教育人材の確保に努めて欲しい。新任教員研修では、この「ダイナミズムを生かした学級経営の手立て」をマニュアル化して、ぜひ手法を体得して欲しい。
 学級が少人数化した分のエネルギーをもっともっと子ども達に向け、明るく楽しい学級をつくれば、いじめなど根絶できる。いじめは、起きるものではなく起こすものだ。
 教諭・教頭・校長としてのささやかな教職人生、精一杯努めてきたが、反省・後悔も多々ある。教育関係者の先輩・後輩の方々、共に過ごした子ども達、支援して下さった保護者・地域の方々など、お世話になった方々への最期の恩返しとして、拙い学級経営を紹介させていただいた。これで、「いじめ、なぜ起こすの? 〜ダイナミズムを生かした学級経営〜 を閉じさせていただく。