これらを総合的に考え、プラス又はマイナス、どれくらいかを位置づける。客観的に数量化できるものではない。教師の裁量による位置づけになる。ファジーなやり方だと考えるかもしれないが、これが教育の元になる力、未知の力である。自然権として教育権を捉えると、子ども自身が持っている力は、数量化できないし、客観性も難しくファジーなものである。ダイナミズムを活用し、子ども達の力を思い切り伸長するところに、教育の醍醐味がある。このことを理解した前提で、支持的風土づくりの手立てを紹介する。
2. 個人ノート
第一に個人ノートだ。子どもたちを理解する直接的な手立てである。これは、生徒一人ひとりと私が個人的にノートでやりとりをする方法だ。このノートで、その子の悩みなどがわかり、友達関係もよくわかる。その子を認めてあげること・無理をさせないこと・希望をもたせること・次につなげることを念頭に丁寧に書いた。6〜7人ずつすすめた。必要な生徒は、いつでも提出できるようにした。注意すべきことは、生徒から直に提出・手渡しでの返却だ。列ごとに集めたり、誰かに返させたりするのは厳禁だ。出張などで帰りに渡せない時は、昼休みに返却した。他の先生に返却を任せることさえ控えた。それほど、生徒一人ひとりを個人として大切にする姿勢をもつべきだ。また、無理に提出させない。提出できない理由を考え、別の手立てをとる。
よく使われる班ノートは使わなかった。それは、愚痴の言い合いや、傷の舐め合いになってしまうことも考えられるからだ。
個人ノートへの返信は、もちろんプラスのことばを使うが、「頑張れ」「大丈夫」などのことばは、重荷になるか安易にとられる怖れもあるので使用しない。書いてくる字の大きさにも注意を図り、こちらも大きさも注意した。今や、学校へスマホ持ち込みが許可され、メールやラインになっていくのか懸念される。
3. 座席
第二に、座席の配置だ。この座席が、学級の雰囲気をつくる。明るく過ごしやすくするため、より良い友達関係ができるようにするため、前述のダイナミズムを考え座席を決めた。当然、生徒の座席は、私自身が決めた。この子の隣にこの子だとどうなるか、この子の前後にこの子だとどうなるか、この子の斜め後ろにこの子がいると、こういうことが起こるだろう、この子と仲良くなるとお互いに伸びるだろうとか、困った時この子が隣にいれば助かるだろうとか、さまざまな想定をして、何日も悩み座席をつくった。また、この座席で、一週間後にこういうトラブルが起きて、それを解決すれば、さらに良好な関係ができるだろう。とトラブル予想もした。失敗もあった。失敗の時は、子どもたちに謝り、なるべく速く替えた。失敗のまま放置することは、それこそいじめに繋がる危険性もある。この座席配置は、大きく学級の雰囲気を変えた。前述の個人ノートも判断材料にし、座席を工夫した。教科担任からも授業の様子を伺ったりもした。座席は、どのような学級にしていくかを決める大事な手立てだ。くじ引きなど偶然性では、良い学級づくりはできない。「支持的風土づくり」が、とにかく大切である。ちなみに、逆は「防衛的風土」で、生徒みんなが自分を守ってしまい、学級として向上していかない。とにかく座席を熟考して、明るく楽しくお互いに認め合える学級をつくりあげ、学級の力を向上させ、学習に、行事に、その力を発揮させた。
4. X氏への手紙
第三に、X氏への手紙を少し変えたものを実施した。ある子の性格・長所・少し直した方がいいと思うこと・向いていると思われる職業などを、他の子が書いてあげる。全員がクラスの誰かのことを書く。そして、私がそれを読み上げ、誰のことかみんなで考えて、当てていく。一種の積極的な人間関係づくりゲームだ。ルールは、自分が誰のことを書いたか絶対に言わないこと、その人の良いことを中心に書き、相手が傷つき、嫌だなと思うことは書かないことだ。誰が誰のことを書くかは、もちろん私が決めた。この子がこの子のことを書くと、こう書いてくれるだろうとの期待を込めて決めた。
この方法は、子どもたち一人ひとりに自信を持たせたり、自分が他の子からどのように見られているかもわかったりして、楽しみにしている子も多かった。また、今度はこう書かれるようにしようと自分を変える子もいた。もし万が一いじめられている子がいたら、表現からすぐわかる。さらに、友達への優しい気持ち、思いやりの心を育てるのにも役立った。
5. 日課
第五に、担任として、日課になっていたことがある。朝、登校してくる子ども達を教室で迎えることだ。教室に入ってくるその子の様子をみるといろいろなことがわかる。もちろん、一人ひとりに声をかける。朝、よく校門であいさつ運動として声をかけている様子も目にする。管理職や担任外の先生ならいいかもしれないが、学級担任は教室で生徒を迎えて欲しい。門で声をかけられると入りにくい生徒もいるかもしれないし、負担に感じる子どもはいると思う。みんな元気に「おはようございます」と言える子どもばかりではない。誤解しないで欲しいのは、朝のあいさつ運動が無意味でやめた方がいいと言っているわけではない。昼休みも、できる限り校庭や教室でこども達と遊んだり、話したりした。働き方改革や勤務時間・休憩時間の関係とかで、さまざまな考え方があるだろうが、基本的には子供たちとなるべく多く係っていてあげようと思うのが、教育者の思いだろう。
6. 環境整備
環境整備は、いじめ根絶にも大切だ。すさんだ教室環境では、生徒の心もすさんでしまう。教室は、生徒にとって生活の場だ。毎日、多くの時間を過ごす。そのため、教室環境整備にも力を入れた。
掲示板・掲示物について、手順を紹介する。まず、掲示板全体に、黄緑色の模造紙をきれいに貼る。これは、緑に気持ちを落ち着かせる作用があり、黄緑には緑にやや明るい要素を取り入れ、教室を明るい雰囲気にした。普通、掲示板は濃い緑だが、変色していることもあるので、黄緑の模造紙をまず貼った。
次に、掲示物・内容・デザインを決め、掲示板の位置と合わせて、生徒全員で考えた。掲示する紙は、色画用紙だ。色を決める人、デザインする人、文字を書く人、髪を切る人、貼る人、全員が関わった。優れた掲示物をつくり、綺麗で長持ちするように工夫した。
また、水槽を置き、熱帯魚なども飼育した。熱帯魚も美しく、水が癒しをくれ、生徒の気持ちも安らぐだろうとの思いからだ。さらに、観葉植物・花を置き、教室を明るくした。
視座を変えて、健康面からも環境整備をと考えてみる。健康面で大切なことがある。室温・湿度だ。夏はエアコンが整備され、冬はストーブだ。見逃してはならないのは、湿度だ。冬の欠席者の多いことが気になった。冬はストーブ暖房で乾燥する。インフルエンザやかぜが広まり、欠席者も増える。学級閉鎖・学年閉鎖まで起きる。そこで、加湿器に目をつけた。教頭の時、全教室・特別室・校長室・職員室に加湿器を入れた。驚いたことに、欠席者は激減した。インフルエンザは、湿度に弱い。転任先でも加湿器を全教室に入れた。今のコロナ禍、冬の加湿器は必需品だろう。
7. その他
その他、独自の学級日誌の工夫・学級活動ノートづくりなどに取り組んだ。
とにかく、いじめ防止という狭い観点ではなく、明るく楽しく過ごせる人間関係づくりを、積極的に進めていくことが大事だ。大きなプラスの雰囲気をつくれば、マイナスの雰囲気など消し去ってしまう。
また、部活動でも人的環境整備は大切だ。仲間意識が大切な部活でいじめがあるようでは、脆弱な部になってしまう。せめて練習試合では、レギュラー以外の生徒も試合に出してあげて、部員みんなにヤル気を持たせて、部活動も支持的風土にすることも大事だ。
おわりに
少子超高齢化と厳しい労務環境のため、教員の希望者は減少している。文科省・教育委員会が英知を絞り、教育人材の確保に努めて欲しい。新任教員研修では、この「ダイナミズムを生かした学級経営の手立て」をマニュアル化して、ぜひ手法を体得して欲しい。
学級が少人数化した分のエネルギーをもっともっと子ども達に向け、明るく楽しい学級をつくれば、いじめなど根絶できる。いじめは、起きるものではなく起こすものだ。
教諭・教頭・校長としてのささやかな教職人生、精一杯努めてきたが、反省・後悔も多々ある。教育関係者の先輩・後輩の方々、共に過ごした子ども達、支援して下さった保護者・地域の方々など、お世話になった方々への最期の恩返しとして、拙い学級経営を紹介させていただいた。これで、「いじめ、なぜ起こすの? 〜ダイナミズムを生かした学級経営〜 を閉じさせていただく。
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